調査報告4 事故の発生原因と責任
図書室の窓等の構造上の問題
以上のような図書室の窓の設置状況は、児童が簡単に外に出られ、また、出てみたくなるような状態であり、安全上は極めて危険なものです。
文部省の「小学校施設整備指針」(平成4年3月)でも、「外部に面した窓は、腰壁の高さを適切に設定すること。また、窓下には、足掛かりとなるものを設置しないことを原則とし、必要に応じ、窓面に手すりを設けることが望ましい」とされています。
ところが、この図書室の窓の場合は、腰壁の高さが約61㎝しかなく、しかも、足がかりとなるような階段状の本棚が設置され、その上、手すりもないという状況であり、この「指針」から見ても適切な構造とは全くいえません。
図書室の窓等の施設管理・運営上の問題
①どうして、このような窓の構造になってしまったのでしょうか。
実は、この図書室ができた当時の窓は2段2連引き違いのスチールサッシ(下左写真参照)であり、腰壁の高さは現在と変わりませんが、サッシの中段約1mの高さに、水平の窓枠(中かまち)があり、そこが、いわば実質的な腰壁の部分となり、危険性はまだ少ない構造でした。
ところが、1982年に指ヶ谷小学校において、外壁サッシ改修等の工事がなされ、その結果、現在のアルミサッシに取り替えられましたが、このサッシには中段の窓枠が無いため、実質的にも腰壁の高さは約61㎝と極めて低くなり、危険なものとなってしまったのです。その際、手すり付きのバルコニーに面した3階と4階の窓も、この図書室の窓も同じ型のサッシに取り替えられています。その時に、5階の図書室の外が手すりのない庇になっていることが全く考慮されずに、このような危険な窓に機械的に取り替えられてしまったと考えられます。建築関係の専門家でなくても、ちょっと注意すれば、危険な窓の構造になることは容易にわかり、窓に手すりを付けるなどの安全対策を行うことができたはずです。

②また、指ヶ谷小学校では、1997年には、耐震補強等の工事がなされ、そのとき、図書室のプール側に面した2つのサッシ窓の内、外に向かって左側のサッシが耐震壁改修の結果、腰壁の高さが約1mの小さい窓に取り替えられ、しかも、手すりが1本つけられました。
しかし、そのときに、右側のサッシ(当該窓)については、手すりが取り付けられることもなくそのままの状態で放置されたのです。同じ図書室の同じ構造の2つの窓について、片方について腰壁の高さを高くして手すりまでつけたのに、どうして右側の窓について手すりを取り付けられなかったのでしょうか。なんとも不思議なことという外ありません。

③このように、この転落事故の起きた窓の構造の危険性については、何度も、容易に認識し得る状況があったにもかかわらず、残念なことに全く安全対策が講じられることなくそのまま放置され続けてきていました。
図書室自体の設置上の問題
この図書室は、5階に位置し、階段教室最上階の単独の室です。事故のあった窓の
3層下がプールになっていて、階の差は3階ですが、建築基準法上では5階です。
また、小学校は、東京都建築安全条例で「特殊建築物」とされており、4階以上に児童を収容する場合においては、より高度の安全性の確認が求められています。
指ヶ谷小学校は、昭和36年に現在の新校舎が建築され、その際にこの5階に図書室が設けられました。当時の安全条例では、「小学校……にあっては、建築物の4階以上に教室その他児童及び児童を収容する室を設けてはならない。ただし、小学校において避難上、安全上及び防火上支障がない場合は、これらの教室を4階に設けることができる。」となっています。
従って、当時、そもそも、5階に図書室を設置すること自体がこの安全条例に違反していたのです。
その後、この安全条例は、
「小学校……にあっては、建築物の4階以上の階に教室その他の児童又は児童を収容する室(「教室等」)を設けてはならない。ただし、小学校にあっては、次の各号に該当し、かつ、安全上支障がない場合は、この限りではない。
①4階以上の階に設ける教室等が専ら高学年の児童の使用するものであること。」
という条件に変更されました。しかしこの図書室は低学年の児童も使用していたものであり、この時点でも「安全条例」違反の状態は解消されていませんでした。現在の建築安全条例では、この条件は削除されていますが、教室等には「二つ以上の」出入口が必要とされております。この図書室の場合、二つの出入口はありますが、その二つの出入口は、図面でも明らかなとおり、一箇所にあり、実質的には二つの出入口があるとは言えません。
これらの点からも、そもそも、この5階の図書室に関しては、図書室としてのあり方自体が問題を含むものでした。

図書室の利用方法等の問題
以上のように、この図書室に関わる構造と施設管理の上から大いに問題があったことは明らかです。
しかも、この図書室の利用方法、監督体制等に関しても極めて重大な問題がありました。
①まず、この図書室には、図書館司書が配置されていません。また、出入口には鍵もかけられていませんでした。
図書室は、本来であれば児童が自由に出入りし図書に親しむ場所であるべきものですが、指ヶ谷小では実際には図書館司書がおらず児童が図書に親しむ状況になかったものです。この問題は、単に本の貸出等管理上の問題があったというだけのことではありません。指ヶ谷小の図書室は教職員の目がいき届きにくい校舎5階に位置していたことも安全面からいって問題があったのです。
図書館司書を配置することができないのであれば、図書室を職員室や保健室等常に教職員がいるであろう場所の近くに置き、児童の安全に十分配慮すべきであったと思われます。
②また、図書室の利用方法等に関する児童への指導・監督もきわめて不十分でした。
指ヶ谷小学校では、「指ヶ谷の良い子」というしおりを児童に配布していたということです。
しかし、そこには、この転落事故が発生した20分休みや昼休みについて「決められたところで遊ぶ」として、「晴れの時 全学年→校庭」「雨の時 4~6年→体育館 1~3年→教室」との記載がされているだけです。図書室に関する具体的な利用方法についての指導内容は何も書かれていません。
学校側の説明では、図書室へは、教諭と一緒でなければ入ってはいけないと指導していたとのことですが、それならばなぜ図書室に鍵をかけていなかったのでしょうか。実際には、児童のみで図書室に出入りしており、それも、かくれんぼ等、遊びが目的で出入りされていたことも多く、そうした実態については、学校にもよく分かっていたはずです。
前述したアンケートによれば、「図書室に先生がいないときに入ったことがありますか。」との質問に対し「はい」と答えている児童は、4年生では18回答中0であるのに対し、5年生で12回答中半分の6名、6年生で24回答中、実に21名もの多数にのぼります。
また、「『図書室に先生がいないときに入ってはいけません。』という注意を聞いたことがありますか。」との質問に対し、この転落事故以前に聞いたことがあるとの回答をしている児童は、4年生で18回答中6名、5年生で12回答中4名、6年生で24回答中12名に過ぎません。
このアンケート結果から見ても、いかに図書室の利用に関する学校側の指導・監督が不十分であったかがわかります。
③窓の外の庇(ひさし)に出ていた実態について
次に、アンケートの庇に関する部分についてです。
まず、この庇の存在について尋ねたところ、4年生では回答者18人中7名は知らない児童がいたものの、5年生及び6年生は上記回答者全員がその存在を知っていました。
次に、「そこ(庇)に降りることができると思ったことがありますか。」との質問に対して、「はい」と答えたのは、4年生では18人中1人しかいませんでしたが、5年生では12人中8人、6年生では24人中13人います。
また、「降りてみようと思ったことがありますか。」との質問に対しては、4年生が18人中2名、5年生が12人中3名、6年生では、24名中5名が「はい」と答えています。
更に、「降りたことがありますか。」との質問に対して、「はい」と答えているのは、4年生ではいませんが、5年生で2名、6年生では3名いました。尚、平成9年と10年の卒業生のなかにも、降りたことがある子がいました。
なお、「降りた児童を見たことがありますか。」との質問に関して「はい」と答えた子は、4年生ではいませんでしたが、5年生では2人、6年生では10人もいます。
このように、指ケ谷小学校では、以前から図書室のその窓から外の庇へ出た児童が何人もいますし、それを見た児童も何人もいたのです。それにもかかわらず、学校側はこのような児童の動向を全くつかんでいなかったとすれば、前記図書室の利用に関する指導・監督の不十分さの結果に他ならないと考えられます。
責任は明白
今回の転落事故に関しては、大人の視点で物事を判断することはできません。大人の視点からみれば、そもそも「庇」に出るような危険な行動にでることは、考えられないものです。しかし、小学校の児童であれば、大人が考えない行動にでることは十分あります。子どもは好奇心が旺盛ですし、危険性の認識能力は大人ほど十分ではなく、また思いもかけない行動をする事があるということを大人はしっかりと認識する必要があります。事実、小学校における転落事故により過去に何人もの児童が事故死しています。
ところで、この事故では、極めて容易に「庇」(ひさし)に出ることができる状態にありました。しかもこの「庇」は、一見すると手すりのないベランダのようにも見えるもので、現実に過去に何人もの子ども達が「庇」に出ていました。
そして、「庇」には柵など転落を防止しうる設備は一切なかったことから、今回の転落事故は起こるべくして起こった事故であるともいえます。
「庇」に出る際の窓等に関しては、前述のように現場調査の結果、窓台の高さが床からわずか ㎝であり5階図書室の外部に面した窓としては極端に低すぎる腰壁であること、5階図書室から見ると手すりのないバルコニーのように見えるものであること、本棚に上がって下りることは極めて容易だといえること等々様々な事実が明らかとなっており、学校施設のあり方という観点からみてもこの事故は必然的に起こったものであったともいえます。
以上のとおり、本件事故に関しての学校側の責任は明白です。